小柴胡湯の加味方が奏功したびまん性の脱毛症
 患者は24歳、女性。子供の頃、アトピー性皮膚炎の既往がありました。
 約1年前、会社の仕事が変わってから脱毛がはじまり、某病院の皮膚科を受診したが、改善せず、別の病院で漢方薬のエキス剤を服用したり、また他の医院で「気功」の治療を受けたりしたが、改善しませんでした。1996年(H8年)9月5日に当院に来院。
 身長159cm、体重49kg、血圧110/60、睡眠と食欲は普通。便通は3〜4日に1行、排尿回数は日中8回で夜間0回。口渇はなく、発汗は普通、めまいはなく、立ちくらみは軽度にあり、肩こりも軽度にありました。生理は不順で、生理痛は著明でした。
 脈候はやや浮・中・弱、舌候は湿潤して微白苔あり。腹候は腹力中等度、胸脇苦満は軽度、両腹直筋の攣急は軽度、臍傍の左右やや下方に軽度の圧痛がありました。
 皮膚は乾湿中等度で、脱毛の状態は写真の如きもので、円形脱毛というよりも「びまん性脱毛」のような印象でした。
 全体像から判断して、陽証で、実証であり、“お血”の圧通点もあったので、小柴胡湯を基本薬方として選定し、そこに桂枝茯苓丸料を追加した処方で経過観察しました。
 初診時より約2週間後に来院した時には、脱毛の状態は特に変わりありませんでしたが、臍上に悸動を触れましたので、同一薬方に竜骨・牡蠣を追加した薬方を処方して経過観察しました。その後(初診時より約6週間後)来院したときも特に変化を認めませんでしたので、柴胡と竜骨・牡蠣を増量して経過観察しました。
 初診時より約6ヶ月後(1997年3月4日)に来院した時には、脱毛状態は少し改善傾向を認めました(写真参照)。同一薬方にて経観しました。
 初診時より約1年後(1997年9月2日)に来院した時には、脱毛状態は改善し、正常になっていました(写真参照)ので、ここで、廃薬としましたが、患者は念のため同一薬方を1ヶ月分持参していきました。
 初診時より約1年3ヶ月後(1997年12月16日)に来院した時には、また脱毛が始まったとのことでしたが、全体の毛はまだふさふさしていました。3ヶ月間ほど生理がなかったというので、桂苓加大黄丸(丸薬)を処方しました。
 初診時より約1年4ヶ月後(1998年1月28日)に来院した時には、脱毛状態はまた確かにはじまっていました(写真割愛)ので、前と同様の煎じ薬を処方して経過観察しました。
 初診時より約1年11ヶ月後(1998年8月12日)に来院した時には、第2回目の脱毛の最盛期(写真参照)であり、再びびまん性に脱毛している状態でした。同一薬方にて経過観察しましたが、その4ヶ月後(1998年12月10日)(写真参照)の状態を経て、さらに4ヶ月後(1999年3月17日)には全く正常(写真参照)になっていました。その後も服用を続け、200年10月26日に来院した時には脱毛状態は全くなく、正常の状態が続いているとのことでしたので、廃薬としました。その後は、来院していません。
 正書によれば、円形脱毛症は大部分自然治癒すると言われています。これに対して、壮年性脱毛症は再発毛を望むことは不可能とされており、前額髪際部から次第に脱毛してM型、或は頭頂部より円形に脱毛してカッパ型となるもので、女子では「びまん性脱毛」となると書かれています。本症例でも来院当初はいかにも「びまん性脱毛」なので、荘年生脱毛症かとも思いましたが、職場の仕事が変わってから始まったとのことであり、かなり「精神的ストレス」が関連していることが考えられ、現に治癒しているので、診断としては円形脱毛症でよいのでしょう。
 大部分は自然治癒すると言われていても、患者の身になってみれば、一刻も早く治して安心したいものです。皮膚科ではステロイドの内服をさせると、すぐ毛が生えてくるようですが、内服をやめるとすぐまた脱毛してしまうようです。
 本例の経過だけでなく、その他の漢方治療をしている例をみてみますと、脱毛が一度おこりだすと、脱毛は進行性で、脱毛する部分はどんどん脱毛していくようです。ある限界に達するとまた生えてくるようで、これを何度でも繰り返す人は繰り返すようです。本例は脱毛体験はたった二度だったようですので良い方だった思いますが、漢方薬がどの程度に有効であったかは簡単には決定できません。これが、有効であったとすれば、ステロイドの内服で発毛が促されるということと合わせて、漢方治療(この場合、柴胡剤と駆“お血”剤および竜骨・牡蠣)は内因性のステロイド産生を促進する可能性も考えられます。これは、今後の研究に期待したいと思います。
 また、多くの病気に関しても言えることですが、脱毛症に関しては、特に精神的ストレスが大いに関係してくる病態ですので、不安を取り除くよう努力することも治療上大切なことと思われます。

後頭部 左側頭部 右側頭部
初診時

(1996.09.05)

約6ヶ月後

(1997.03.04)

約1年後

(1997.09.02)

約1年11ヶ月後

(1998.08.12)

約2年3ヶ月後

(1993.12.10)

約2年7ヶ月後

(1999.03.17)


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