柴胡桂枝湯の加味方が奏効した多発性細網組織腫症の皮膚所見-1
 患者は43歳、女性。約5年前(1986年9月)に右第4指に発疹が出現し、以後徐々に増悪して、手がこわばり、某病院では慢性関節リウマチと診断されました。その後、大阪で有名な他の病院を受診したところ、多発性細網組織腫症と診断され、メソトレキセートを2年間ほど服用してきましたが、副作用のため、服用を中止。1991年(H3年)1月から抗ガン剤のラスチッドを服用してきましたが、体質改善を希望して、1991年5月15日に当院に来院しました。
 身長162cm、体重49kg、血圧110/80、睡眠、食欲、便通、排尿回数等は特に問題なし。発汗は普通で、顔は赤味を帯びていて、時々ほてりがある。生理は順調でした。
 脈候はやや浮・中で力あり、舌候は湿潤して微白苔あり。腹候は腹力中等度で、臍上に悸動があり、胸脇苦満は軽度で、両腹直筋の攣急は軽度、臍傍の圧痛点なし。
 皮膚は乾湿中等度で白く、両手の背面が全体的に潮紅を帯びており、指関節の変形および種々の大きさの塊が認められ、また、左前腕の後面にも発赤した腫脹病変が認められました(写真参照)。
 全体から判断して、陽証でやや虚証であり、基本薬方としては柴胡桂枝湯(柴胡6、人参3、甘草3、半夏6、黄ごん3、大棗3、乾生姜1、桂枝3、芍薬3)を選定し、潮紅の多い病変に対して黄連(0.5)を追加した薬方を処方しました。
 初診時より約2週間後(5月28日)に来院した時には、顔、前頚、手、腕などの潮紅は少し薄くなってきているようでしたので、同一薬方にてしばらく経過観察したところ、約14週間後(8月27日)に来院した時には、潮紅の度合いも腫脹の度合いもやや減少している印象でした(写真参照)。抗ガン剤(ラスチッド)は6月のころから、4週間服用して2週間休みという状態でしたが、10月8日以降は西洋薬は服用せず、皮膚科医には様子を見せに行っているだけとのことでした。
 初診時より約1年1ヶ月後(1992年6月23日)に来院した時には病変は大変良くなっている印象でした(写真参照)。また、約1年5ヶ月後(10月13日)の状態も写真の通りです(写真参照)。肉芽がまだ消えていないので、9月末にラスチッドを処方(1日1錠)されたそうですが、むかつきのため2週間で中止したとのこと。
 初診時より約1年8ヶ月後(1993年1月19日)に来院した時には、病変は少し余計に出ている感じもありましたが、忙しさで漢方薬も飲んだり飲まなかったりの状態だったようです。そこで、同一薬方によく苡仁(16)を追加した薬方を処方しました。
 初診時より約2年9ヶ月後(1994年2月15日)に来院した時には、病変は少し潮紅も増し、塊も少し大きくなっている印象でした(写真参照)。やはりこの頃も忙しさで漢方薬をきちんと服用できていなかったようです。その後2ヶ月間は同一薬方を処方しましたが、その後の3年半ほど患者の来院がありませんでした。
 初診時より約6年4ヶ月後(1997年9月24日)に来院した時には、病変ははっきり以前より悪化していました(写真参照)。この3年半の間は、漢方薬は服用せず、抗ガン剤やステロイドなどの治療をしていたようです。また、漢方薬を服用した方が良いと思い直して来院したとのこと。そこで、同一薬方を処方して経過観察したところ、再び潮紅が薄くなっていき、再来院時より約22週間後(1998年3月11日)の所見としては、写真で見るように少なくとも、肘や前腕の潮紅はかなり薄くなっていることがわかります(写真参照)。その後、1ヶ月分同一薬方を持ち帰りましたが、その後、左乳房に乳ガンが見つかり、その治療のため、来院しなくなってしまいました。
 最終来院日より4年後(2002年1月24日)に電話をかけて尋ねてみたところ、元気にしており、腫瘍病変はまだあるが、増えていないし、抗ガン剤も服用していないとのことでした。
 本症例は多発性細網組織腫症という腫瘍病変で、西洋医学による抗ガン剤その他の治療で、あまり改善しないものが、漢方薬の服用によって、徐々に改善傾向を示す例でした。漢方薬の服用が出来ない状態では、悪化するが、服用を再開すると改善傾向を示すという経過を見るとやはり、漢方薬が改善作用を持っていることを示していると思われます。途中乳ガン治療のため、来院できなくなってしまったのは大変残念ですし、完治まで至った症例ではありませんが、誰かに少しでも役に立つこともあるかもしれないと考え、掲載いたしました。

左手指背面 右手指背面 左前腕後面
初診時

(1991.05.15)

約14週間後

(1991.08.27)

約1年1ヶ月後

(1992.06.23)

約1年5ヶ月後

(1992.10.13)

次項


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