白虎加人参湯の加味方が奏効した慢性湿疹
 患者は55歳、女性。約5年前から身体に皮疹が出始めたので、近医(皮膚科)を通院していたが、良くならず、約1ヶ月前に某漢方薬局で漢方薬を出されたが結局改善せず、皮疹が増悪し、同薬局で漢方薬の服用を中止するように指示され、また、当院を紹介されたため2001年(H13年)6月5日に来院しました。
 身長153.5cm、体重50kg、血圧132/66、脈はやや浮・大・弱、腹候は腹力中等度で、両腹直筋の撃急は中等度、臍傍の圧痛点なく、胸脇苦満やその他の所見はない。口渇はなく、発汗しやすく、目まいや立ちくらみはなし。顔面の火照りが軽度にあり、肩凝りも軽度にある。
 初診時の皮膚所見として、皮膚は乾湿申等度で全身に皮疹が認められ、掻痒感も甚だしいものでした(初診時写真参照)。甘いものは大好きで、クッキーや果物をよく食べるが、餅米類などはそれほど摂取しないとのことでした。
 全体像から判断して、陽証でやや実症であり、臍傍の圧痛点もないので、駆"お血"剤を使用する前にまず白虎加人参湯(知母6g、人参4g、石膏48g、甘草2g、梗米9g)を処方しました。
 初診時より、4週間後に来院した時には、少し改善傾向でした(写真参照)が、8週問後に来院した時には、1週間ぐらいまえからまた皮疹が出てきているそうで、よく問診すると甘いものや果物などを摂取したとのこと。間食の注意をし、同一薬方に黄連(1g)、黄柏(1g)、山梔子(1g)を追加した薬方を処方する事にしました。その後は皮疹は改善されていき、初診時より28週間後に来院した時には殆ど完治に近い状態でした(写真参照)。その1ヶ月後はほぼ完治した状態でしたので、念のためあと一ヶ月分を処方し、終了としました。
 本症例では、漢方薬局でだされた漢方薬で皮疹が増悪したものですが、その薬方とは、消風散料エキスと十味敗毒湯エキスであり、塗り薬として申黄膏と神仙太乙膏でした。以前も陰証の病態に対して十味敗毒湯を出されたために増悪したと思われる症例がありましたが、本症例ではそれほど「虚」している状態ではなかったので、皮疹の増悪の原因は別にあったのかもしれません。
 一般的に巷の漢方では、さまざまな皮膚疾患に対して、消風散料や十味敗毒湯などがよく使われる傾向にありますが、当院では消風散料の適応病態のかなりのものが、白虎加人参湯で治し得るという印象があります(両者に共通する生薬として石膏、知母、甘草があります)。もちろん、「甘味づけ体質」を改善していくということがこの症例でも重要な留意点でした。また、白虎加人参湯だけでは、うまく改善しない場合、特に皮疹の赤みが強くなっている場合など、黄連のみあるいは本症例のように黄連・黄柏・山梔子を加味することがよく奏効する場合もあります。

腰背部 右大腿外側面 左下腿前面 右足関節前面 左足関節前面
初診時

(2001.06.05)

約4週間後

(2001.07.03)

約28週間後

(2001.12.18)

次項


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