患者は64歳、男性。約30年前の肝炎発生の頃から、湿疹が出来やすくなり、複数の病院の皮膚科を受診し、主として外用薬を使用してきた。某大学病院でステロイド剤の内服薬を処方され、皮膚は一時良くなったが、副作用の一つである満月様顔貎となり、中止。その後はリバウンドのため、皮膚は更に増悪したため、平成元年4月ごろ当院に来院した。
身長163cm、体重64kg、血圧150/80、脈はやや沈・中・力あり、腹候は腹力十分で、胸脇苦満は軽度、両腹直筋の攣急も軽度、臍傍の左下方に軽度の圧痛点あり。口渇が著明(1時間に1回コップ1杯の水を飲む程)で、発汗しやすく、めまいや立ち眩みなどはない。初診時の皮膚所見としては皮膚は湿潤して、顔面と頭部を除いて全身に発疹(背部上半部、胸部上半部、左腋窩、右上腕の後面上部、右下腿外側面の写真参照)があり、掻痒が高度であった。甘い物は大好きで、酒は飲まず、6年前より禁煙中とのことであった。全体像から判断し、陽証で実証であり、胸脇苦満も“お血”圧痛点もあったが、口渇が著明であったので、ひとまず、白虎加人参湯(知母6、人参4、石膏48、甘草2、粳米9)の煎剤を処方した。初診時より、2週間後、6週間後の経過で、皮疹はかわいてきて、赤味も減少傾向を示し、10週間後(写真参照)には皮疹はかなり改善し、掻痒感も少なくなってきたとのことであった。ところが、15週間後には皮疹はやや悪化し始めてきた。肉親の死という大きなストレスもあったためか、約2週間前より悪化してきたとのこと。いちおう同一薬方を継続して、経過観察。19週間後には少し悪化している状態で、この1ヶ月間は、30年来飲んでいた牛乳をやめ、和食にして、おかきなど餅米類もやめているが、良くならないとのこと。更に同一薬方にて経過観察。20週間後(写真参照)には、全体的に悪化し、皮疹が紅潮を増しているため、同一薬方に黄連1gを追加して経過観察したが、24週間後には皮疹に変化はなく、口渇がひどくなったとのことであった。同一薬方から黄連を去り、人参を6g、石膏を64gに増量して経過観察するもやはり、皮疹は同様の状態であり、この時点で、白虎加人参湯は適応ではなくなったと判断し、転方することにした。臍傍の圧痛点はなくなっていたが、駆“お血”剤である桂苓丸料(桂枝4、茯苓4、牡丹皮4、芍薬4、桃仁4)を基本薬方として選定し、そこにヨク苡仁16g、冬瓜子2g、大黄2g(別包)を追加して処方した。32週間後には皮疹は軽快傾向を見せ始め、便通は大黄を使わずに1日2〜3行あるとのことで、大黄を除いて、同一薬方を継続。その後は36週間後、40週間後45週間後と皮疹は改善してきて、50週間後(写真参照)には一応完治の状態となった。
本症例は、白虎加人参湯で改善される部分を改善し、そのあと桂苓丸料で根本的に体質を改善していった症例と考えられる。臨床経験から言えば、この両湯の投与の順序は、はじめ白虎加人参湯を投与して様子をみて、その後に桂苓丸料を投与した方がよいようです。