越婢湯の加味方が奏効した甲状腺眼症(その2)
 患者は51歳、女性。約2年前(1991年)に食欲が亢進し、発汗過多となり、体重は減少した。
約1年前に涙液が減少し角膜潰瘍が生じ、近医を受診して甲状腺腫と甲状腺機能亢進を見つけられて抗甲状腺薬(メルカゾール)を与えられ、2ヶ月位で涙液が出るようになった。約6ヶ月前、まぶたが腫れている感じがあり、眼球突出と嗄声と味覚障害があった。1993年(H5年)4月7日に甲状腺機能が低下していることがわかり、抗甲状腺薬(メルカゾール)の服用を中止したが、眼球突出のみが残ってしまい、同年5月18日某大学病院の眼科に入院したが、以前に漢方治療で良くなった人がいることを聞き、眼科医に漢方治療をすすめられ、紹介状を持って、同年6月3日に当診療所に来院した。
 身長156.6cm、体重49.2kg、血圧120/84、睡眠・食欲良好。便通は1日2行、排尿回数は日中7回、夜間尿なし。口渇は軽度で発汗し易く、目まいや立ちくらみはない。47歳で閉経。
 脈候はやや沈・小・弱で、舌候はやや乾燥して厚い白苔あり。腹候は腹力中等度で、胸脇苦満はなく、両腹直筋の攣急は軽度、臍上の動悸が著明であった。
 初診時は、右眼球突出のため、顔面の正面像では右目は大きく見え、右顔面像と左顔面像の比較では右上眼瞼が左上眼瞼に比べ、円味を帯びている印象があります(写真参照)。また、頚部正面像では、軽度の甲状腺腫を認めます(写真参照)。
 全体像から判断して、陽証で、実証であり、前回(5月号)の症例にならって、越婢加朮湯を選定し、利尿作用を更に増強する意味で、茯苓を追加した薬方を処方しました。理由は、前回と同様です(5月号参照)。
 初診時より約2週間後(1993年6月17日)(写真参照)に受診した時には、正面、右方注視、左方注視を比較すると、まだ眼球突出のため、右目が大きく見え、運動不全も認めています。前日よりステロイドパルス療法が始まったとのことでした。
 約3週間後(1993年6月24日)に受診した時には、涙が出なくて目がすぐ充血して痛くなる症状が消失していて、その他、尿量は1日1300〜1400mlであり、1回の量が増えているとのことでした。また、2日後が退院予定であるとのことでした。
 約7週間後(1993年7月22日)に受診した時には、目の方は少し良い感じだが、まだ、左上方視で複視がある状態とのことでした。
約6ヶ月後(1993年12月9日)(写真参照)に受診した時には、目の方はやや良くなっている印象がありました複視はまだ残っているとのこと。また、甲状腺機能は最善の状態にあるが、頚部の方は、ほぼ同様でした。
 約1年4ヶ月後(1994年9月29日)(写真参照)に受診した時には、更に改善傾向にあるようでした。バセドウ抗体は、同年7月21日から全く正常になり、薬はなしでよいと言われていました。
 約2年3ヶ月後(1994年9月29日)(写真参照)に受診した時には、目の方はかなり正常に近いまでに改善していましたし、頚部の方も以前より良い印象でした。
 この症例では、眼窩MRIの結果では、下直筋の肥大があり、それが、繊維化ではなく浮腫状態であるという所見なので、その浮腫の改善の目的で、ステロイドパルス療法(3日間連続)を行ったわけです。もしそうだとすると、漢方の強力な利尿剤である越婢湯加白朮・茯苓を投与することは、同じ方向の治療であったことになります。漢方治療の場合はパルス療法に比べたらはるかに緩和であり、持続が可能ですので、今後、多くの人が安全に使えるものになる可能性があります。但し、この場合、下直筋などの浮腫を改善していくのは、あくまでもその一つの作用であって、これがすべてであると単純に考えてしまってはいけないと思います。その他の色々な作用がある筈だからです。
 前回の報告でも述べましたが、この甲状腺眼症に対する適確な治療法は、確立されていませんが、前回も今回もこの治療法が、良く奏功した手応えがありましたので、参考に供しておくわけです。

正面 頚部
初診時

(1993.06.03)

正面 右方注視 左方注視 頚部
約2週間後

(1993.06.17)

約6ヶ月後

(1993.12.09)

約1年4ヶ月後

(1994.09.29)

約2年3ヶ月後

(1995.09.12)


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