柴胡桂枝湯の加味方が奏効した老人性乾皮症
 患者は79歳、男性。1999年(H11年)8月末頃から、身体中に痒みが(特に就寝後に)出現し、近医受診にて老人性乾皮症と診断された。主として塗り薬を処方されたが、ほとんど良くならず、皮疹は身体中にひろがった。某薬局で当院を紹介され、2001年(H13年)5月7日に来院した。
 身長167.3cm、体重55kg、血圧130/70、脈はやや浮・大・弱、腹候は中等度で、胸脇苦満は軽度、両腹直筋の攣急も軽度、臍傍の圧痛点なし。口渇は中等度で、発汗は夜おきやすく、手足は冷えやすい。初診時の皮膚所見としては皮膚は乾湿中等度で、全身に発疹が認められ、皮疹は赤褐色の丘疹で、孤立性の部分と融合した部分とがあった。ステロイド剤を使用しているため、それ程重篤な印象はなかった(胸腹部前面、左上腕前面、左前腕前面、右大腿後面、左大腿外側面、右下腿外側面、左上腕後面、左前腕後面の写真参照)。
 甘いものは大好きで、チョコレートを1日60個ほど食べていて、果物は少々食べ、餅米などは食べず、酒は飲まないとのことであった。
 全体像から判断して、陽証で、やや虚症であり軽度の胸脇苦満と軽度の腹直筋攣急の腹候を考慮して、基本薬方としては、柴胡桂枝湯を選定し、そこに黄耆を加味していくことにした。また、チョコレートは食べないように指示した。
初診時より2週間後に来院した時は皮疹の赤味が少し薄くなっている印象があった。チョコレートはまだ1日10個ほど食べているとのことなので、一切やめるように指示し、同一薬方を処方。その後は、皮疹は日を追う毎に改善(約16週間後参照)してきて、初診時より約32週間後(写真参照)に完治と判断した。
 老人性乾皮症は脂肪欠乏性湿疹とも言われ、普通は発疹はなく、掻痒が強いもののようですが、二次的な皮疹が出ているものも含めていく立場もあるようです。
 本症例も皮疹を伴う全身の掻痒感で、皮膚科にて老人性乾皮症と診断され、2年間外用薬による治療を受けたが、軽快せず、漢方薬の服用と間食の注意にて完治したものです。甘いもの(この場合チョコレート)の多量摂取が皮膚病の基本的な原因になっている可能性が大である典型的な症例と考えられました。

胸腹部前面 左上腕前面 左前腕前面 左上腕後面 左前腕後面
初診時

(1989.07.11)

約16週間後

(1989.09.26)

約32週間後

(1989.12.26)

次項


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